
「このまちの“らしさ”って、なんだろう?」
ブランディングに関わるとき、私たちはよくこの問いに立ち返ります。
派手な観光資源でも、有名な特産品でもなく、 日々の暮らしの中に静かに息づくものこそが、本当の「らしさ」であり、人々のneedsとマッチすることで、その街の良さが生まれます。
その「らしさ」は、案外いつもそばにある—— だからこそ見落とされ、言葉にならずに眠っている。
ここでは新しいものを生み出さずに、既存のものを新しい価値に変える方法について探ってみたいと思います。
■ 下関市・名古屋市に学ぶ“対話のブランディング”

株式会社パラドックスが手がけた下関市のプロジェクトは、 まさに「当たり前の中のらしさ」に光を当てた好例です。
持続性のあるプラットフォームを作り上げ、
官民連携のワーキンググループを設置するなど、人々との連携を大切にしながら「らしさ」をひも解いていきました。
下関という名前や歴史のスケールに囚われず、 市民一人ひとりの「実感」に寄り添い、 ・何を大切に思っているのか ・どんな人がこのまちに多いのか ・どんなふうに生きていきたいのか
地方都市の人口減少や過疎化。高度化なIT化による人と人とのコミュニケーション不足。世の中に暗いニュースが多い中、下関産品の存在意義は何なのか。それを突き詰めて考えていきました。
もともと下関は本州の玄関口として海運業や貿易業が栄え、世界中からモノが集まり、おいしいものはもちろん、さまざまな新しいものにたくさん触れられるまちでした。それは、今も変わっていません。歴史・文化・観光・景観・イベントなどさまざまな魅力があふれるまちです。
バラエティあふれる下関産品の存在意義。それは下関を訪れる人や産品を手に取る人に、「おいしい」と「たのしい」が共鳴する黄金時間をつくること。議論の結果、下関産品のミッション(存在意義)として
「おいしい!」と「たのしい!」の共鳴。
という言葉が決まりました。
また、「おいしい!」と「たのしい!」の共鳴の先に、下関産品が実現したい未来(ビジョン)、下関産品が約束する価値(バリュー)も言語化しました。
※引用:https://prdx.co.jp/branding/shimonoseki/

一方、名古屋市の「やさなご」プロジェクトでは、 “やさしい大都市”というあり方を探る中で、 市民・企業・行政それぞれが持つ「やさしさ」への価値観を言語化しています。
ここでも大切にされたのは、 外向けのPRではなく、「私たちにとっての幸せとは何か?」という内側の対話でした。
そのためにワークショップを開催し、市民や行政の人々が一緒に考える時間を多く設けました。
ワークショップの内容
<DAY1>名古屋らしさ・強みの検討
【1】名古屋の課題は何か?
【2】ブランディング・シティプロモーションで得たい成果は何か?
【3】名古屋市(名古屋市民)の「らしさ・価値観」は何か?
【4】未来に持っていきたい「らしさ・価値観」1~3位は?
【5】名古屋市が世界一になれることは何か?
【6】名古屋市民にとって「幸せに生きる・暮らす」とは?
<DAY2>
ターゲットの考察、世の中の課題を踏まえ名古屋が憧れられるポイント
【1】名古屋市があえて嫌われたい人は誰か?好かれたい人は誰か?
【2】世の中が抱えている課題は何か?
【3】名古屋市がもっとも憧れられるポイントは何か?
<DAY3>
ブランドコンセプトの考察
【1】各チームにて意見集約
【2】ブランドコンセプトをもとに、自分(あるいは自社)が取り組んでいけそうなことは何か?
引用:https://prdx.co.jp/branding/nagoya/
こうしたプロセスが、結果として“対外的な発信力”を持つ 「市民性の言語化」「都市の体温設計」へとつながっていきます。
■ Spinning Moonが大切にしていること
私たちSpinning Moonもまた、「声にならない日常の価値」に耳を澄ますことから始めます。
たとえば——
- 住宅の近くに自然を感じる場所がある
- 特産品よりも人気の料理がある
- お店で名前を覚えてくれる人がいること
それは観光パンフレットにも、報告書にも書かれないけれど、 その土地で暮らす人にとっては、揺るぎない“居場所の感覚”なのです。
それを言葉にして伝えるためには、 “聞く力”と“翻訳する力”が必要です。
私たちは、単に言葉やビジュアルを作るのではなく、 人と人、人と土地、人と制度をつなぐ「感情の通訳」としてプロデュースに関わります。
そのためには人々と集まる機会を設け、現場の声を拾い上げていくことが大切だと感じています。
■ 「言えなかったこと」から始める、まちの言語化
よく「うまく言えないけど、このまちが好き」 「特別じゃないけど、誇りがある」という人がいます。
その“うまく言えなかったこと”こそが、まちの真ん中にある宝物です。
それを表現し、未来の住民や子どもたちに渡していく。 ブランディングとは、そうした“想いの通訳”を未来に向けて積み重ねていく営みだと思うのです。
■ だからこそ、小さく始められる
大きな予算も、有名な観光資源もいりません。 必要なのは、「今ここにある、当たり前」に敬意を持つこと。
Spinning Moonでは、
- ワークショップを通じた市民の声の翻訳
- 職員の内側にある“らしさ”の言語化
- 小さな発信から広がる共感のデザイン
こうしたプロセスを、地域とともに歩みながら進めています。
“らしさ”は、あなたの当たり前の中に、きっと眠っています。 それを一緒に見つけるところから、まちの未来が始まるのです。