
本章では、文化資源を活かした施策の中でも特にユニークかつ再現性のある3つの取り組みを紹介します。
1. 祭りを“ブランド資産”に
新潟県十日町市「大地の芸術祭×越後妻有雪まつり」

新潟県十日町市では、地域に根付く「雪まつり」を、現代アートと融合させることで“世界に発信できる文化イベント”へと転換しました。地元の伝統的な雪像づくりに、国内外のアーティストが参加。地域住民との共同制作を通じて、雪国の暮らしそのものが文化として表現される祭りとなっています。
観光資源としてだけでなく、「住民が主役になれる表現の場」として、誇りと関係人口の拡大を両立した好例です。
出典:大地の芸術祭公式サイト、十日町市地域戦略レポート(2022年)
2. 空き家を希望の場に
岡山県西粟倉村「シェアオフィス『HUB』のリノベーション」

岡山県西粟倉村では、人口1,500人弱の小さな村においても、廃校や空き家を活用したリノベーションが地域活性化の核となっています。特に注目されたのが、旧村役場を改修して開設されたシェアオフィス「HUB」です。
この施設は、地元企業や移住者、フリーランスが共に働く場として整備され、林業・デザイン・ITといった多様な分野の人々が自然と交わる「共創拠点」となっています。また、同村の挑戦を牽引する株式会社エーゼロが関わることで、空き家再生とビジネス創出が連動したモデルが実現しました。
入居者向けに貸し出されている 無料のレンタル自転車や、 有料の小型モビリティがあり、図書館やワーキングスペースなどすべてが最新のデザインで創られています。
豊かな自然に点在する、上質な田舎。
リノベーションは単なるハード整備に留まらず、「働く」「暮らす」「交流する」という人の営みの再設計にまで踏み込んだ、地域ブランディングの成功例といえるでしょう。
出典:エーゼロ株式会社公式サイト、西粟倉村『地方創生加速化交付金』活用事例(2021年)
3. 小さな島の大きな挑戦
香川県男木島「観光客ゼロから始めた共創プロジェクト」

香川県の男木島では、高齢化と観光資源の乏しさから一時は“限界集落”と呼ばれていましたが、アートプロジェクト「男木島の魂」が転機となりました。住民とアーティストが協働し、空き家や港を舞台にした作品を制作。観光客を呼ぶことを第一目的にせず、「地域の日常を見つめ直すこと」から始めた点が特徴です。
現在では、移住者との共同活動やワーケーション拠点づくりも進み、「アートを通じた共創」が島の文化そのものとなりつつあります。
出典:瀬戸内国際芸術祭、男木島公式プロジェクト資料(2022年)
4. まとめ:地域に眠る“表現”を引き出すプロデュースの力
文化資源とは、すでに完成された観光資産ではなく、「編集されることで価値を生む潜在的な素材」です。
クリエイティブな地域プロデュースとは、地域の人・空間・歴史に新たな視点を加え、住民とともに“共通の物語”として形にする営みです。祭り、空き家、離島──いずれも本来は課題として語られがちな素材を、「誇り」や「つながり」の象徴へと昇華させた事例から学べることは多くあります。
外から来た人の視点と、地域に根ざした声とが響き合う場所に、次の地域ブランドの芽が宿るのです。